「こども性暴力防止法(日本版DBS法)」が成立

子どもと接する職場で働く人の性犯罪歴を確認する制度が2026年中には施行となります。

こども性暴力防止法は、子どもに対する性暴力の未然防止、早期発見、被害者の保護や支援、加害者の再犯防止などを目的とした日本の新しい法律です。この法律は、子どもを取り巻く安全な環境を整えることを主眼に置き、学校や福祉施設、子どもに接する機会のある事業者に対して義務を課しています。

1. 法律の概要と趣旨

(1) 法律の趣旨

こども性暴力防止法の趣旨は、以下のように整理できます。

  1. 子どもの権利の保護
    子どもが性暴力の被害を受けることなく、安心して成長できる環境を整備する。
  2. 予防と早期対応の強化
    性暴力の未然防止に努めるとともに、被害を迅速に発見し、適切な支援を行う。
  3. 加害者の再犯防止
    加害者の行動を監視し、再発リスクを抑えるためのプログラムや規制を整備する。

(2) 対象事業者の債務等

  • 学校設置者等及び民間教育保育等事業者(第3条第1項)
    ・教育等及び教育保険等従業者による児童対象性暴力等の防止に努める
    ・児童対象性暴力等の被害児童等をタ季節に保護する
  • 国(第3条第2項)
    ・学校設置者等及び民間教育保育等事業者が前項に定める責務を確実に果たすことができるようにするため、必要な情報の提供、制度の整備その他の施策を実施しなければならない。
  • 被害者への迅速な保護と支援体制の構築。
  • 性暴力リスクの高い環境や行動に対する監視強化。
  • 性犯罪加害者の行動制限や更生プログラムの導入。
事務所ロゴ

2. 対象事業の範囲

こども性暴力防止法が対象とする事業の範囲は、以下のように広範囲にわたります。

対象事業の範囲の考え方

こどもの未熟さ等に乗じた性犯罪を防ぐため、事業の性質が、次の要件を満たすものを対象範囲として検討している。
 ① 支配性 (こどもを支配するなどし、非対称の力関係があるなかで支配的・優越的立場に立つこと)
 ② 継続性 (時間単位のものを含めてこどもと生活を共にするなどして、こどもに対して継続的に密接な人間関係を持つこと)
 ③ 閉鎖性 (親等の監視が届かない状況の下で預かり、養護等をするものであり、他者の目に触れにくい状況を作り出すことが容易であること)

※派遣や委託関係、当該業務を有償・無償のいずれで行っているかにとらわれることなく、その実態に即して判断する方向で検討している。

(1) 学校設置者等【義務】

  • 学校(幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高校、中等教育学校、特別支援学校、高等専門学校など)
  • 認定こども園法又は児童福祉法上の認可等の対象となっているもの(認定こども園、児童福祉施設、児童相談所、指定障害児通所支援事業、家庭的保育事業等、乳児等通園支援事業など)

(2) 民間教育保育等事業者【認定】

  • 学校教育法に規定される専修学校(一般家庭、簿記学校、製菓学校等)及び各種学校(準看護学校、助産師学校、インターナショナルスクール等)
  • 学校教育法以外の法律に基づき学校教育に類する教育を行う事業(高等学校の課程に類する教育を行うもの。公共職業訓練中卒者向けコースを想定)
  • 児童福祉法上の届出の対象となっているもの等
    ・放課後児童クラブ等
    ・一時預かり事業
    ・病児保育事業
    ・子育て短期支援事業
    ・認可外保育施設
    ・児童自立生活援助事業
    ・小規模住居型児童養育事業
    ・妊産婦等生活援助事業
    ・児童育成支援拠点事業
    ・意見表明等支援事業
  • 障害者総合支援法上に規定されるもの(障害児を対象とするもの)
    ・居宅介護事業
    ・同行援護事業
    ・行動支援事業
    ・短期入所事業
    ・重度障害者等包括支援事業
  • 民間教育事業(児童に技芸又は知識の教授を行うもの。※一定の要件設定を検討中)
    ・学習塾
    ・ダンススクール
    ・スポーツクラブ 等

対象業務

  • 教員等【義務】
    ・校長、園長、教諭、養護教諭
    ・寄宿舎指導員
    ・施設の長
    ・保育士
    ・児童指導員
    ・児童福祉司
    ・心理療法担当職員  等  ※その他追加される可能性あり。
  • 教育保育等従事者【認定】
    ・放課後児童支援員
    ・家庭的保育者
    ・子育て支援員
    ・塾講師
    ・スイミングクラブ指導員
    ・ダンススクール講師  等
    ※ 認定の申請時に、従事者の業務の詳細を説明する資料を提出させ、対象業務に該当することを確認(対象業務に該当するかどうかの基準はガイドライン等で示すことを想定)

3. 認定の表示・利用促進等

認定を受けた事業者であることが利用者に分かるよう、国が公表。事業者は認定を受けた旨を表示できるようになる。
※そのほか、利用者に対して認定事業者の公表・表示について十分に周知するとともに、所管省庁等が連携して事業者による認定の取得を促進する。

事務所ロゴ

4. 対象事業者に求められる措置等

法律では、対象となる事業者に対して具体的な義務や措置が課されます。これにより、性暴力の予防と被害者支援を徹底します。

初犯対策(1) こどもの安全を確保するために日頃から講ずべき措置
・教員等の研修(第8条等)
・危険の早期把握のための児童等との面談等(第5条第1項等)
・児童等が相談を行いやすくするための措置(相談体制等)(第5条第2項等)
(2) 被害が疑われる場合の措置
・調査(第7条第1項等)
・被害児童の保護(第7条第2項等)
再犯対策(3) 対象となる性犯罪前科の有無の確認(第4条等)
※ 現職者も3年以内確認(第4条第3項等)
※ 5年後(確認日の翌日から5年が経過した日が属する年度末まで)に確認(同条第4項等)
特定性犯罪前科の対象
㋐ 拘禁刑(服役):刑の執行終了等から20年
㋑ 拘禁刑(執行猶予判決を受け、猶予期間満了): 裁判確定日から10年
㋒ 罰金:刑の執行終了等から10年

防止措置の義務

性犯罪前科の有無の確認の結果、面談等、児童等からの相談の内容その他の事情を踏まえ、その者による児童対象性暴力等が行われるおそれありと認められる場合、児童対象性暴力等の防止のための措置(教育、保育等の業務に従事させないなど)を講じなければならない。(第6条等)
特定性犯罪前科有りのときは、児童対象性暴力等が行われるおそれありとして、防止措置は必須。詳細はガイドラインにて示す予定。

情報管理設置等

  • 犯罪事実確認書等の適切な管理(第11条、第14条)
  • 利用目的による制限及び第三者に対する提供の禁止(第12条)
  • 犯罪事実確認書に記載された情報の漏えい等の報告(第13条)
  • 犯罪事実確認記録等の廃棄及び消去(第38条)
  • 情報の秘密保持義務(第39条)

5. 児童対象性暴力等について

本法では、「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律(教員性暴力等防止法)第2条第3項に規定する児童生徒性暴力等」に相当する行為を、「児童対象性暴力等」として規定し、対象事業者が防止措置を講じる対象としています。
※児童生徒等の同意や暴行・脅迫等の有無を問いません。また、刑事罰が科されなかった行為も児童生徒性暴力等に該当する可能性があります。

教員性暴力等防止法における「児童生徒性暴力等」の定義 (同法第2条第3項)


① 児童生徒等に性交等(刑法(明治 40 年法律第 45 号)第 177 条第1項に規定する性交等をいう。)をすること又は児童生徒等をして性交等をさせること(児童生徒等から暴行又は脅迫を受けて当該児童生徒等に性交等をした場合及び児童生徒等の心身に有害な影響を与えるおそれがないと認められる特別の事情がある場合を除く)。(第1号)

② 児童生徒等にわいせつな行為をすること又は児童生徒等をしてわいせつな行為をさせること(①に掲げるものを除く)。(第2号)

③ 刑法第 182 条の罪、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成 11 年法律第 52 号。以下「児童ポルノ法」という。)第5条から第8条までの罪又は性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律(令和5年法律第 67 号。以下「性的姿態撮影等処罰法」という。)第2条から第6条までの罪(児童生徒等に係るものに限る。)に当たる行為をすること(①及び②に掲げるものを除く)。(第3号)

6. 犯罪事実確認の対象となる性犯罪(特定性犯罪)について

以下の性犯罪について、一定期間内が確認対象

  • 拘禁刑(服役):刑の執行終了等から20年
  • 拘禁刑(執行猶予判決を受け、猶予期間満了):裁判確定等から10年
  • 罰金:刑の執行終了等から10年

刑法


・不同意わいせつ(176条)
・不同意性交等(177条)
・監護者わいせつ及び監護者性交等(179条)
・不同意わいせつ等致死傷(181条)
・16歳未満の者に対する面会要求等(182条)
・強盗・不同意性交等及び同致死(241条1項・3項)

盗犯等の防止及処分に関する法律


・常習特殊強盗致傷(4条)

児童福祉法


・淫行をさせる罪(60条1項)

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律


・児童買春(4条)
・児童買春周旋(5条)
・児童買春勧誘(6条)
・児童ポルノ所持、提供等(7条)
・児童買春等目的人身売買等(8条)

性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律


・性的姿態等撮影(2条)
・性的影像記録提供等(3条)
・性的影像記録保管(4条)
・性的姿態等影像送信(5条)
・性的姿態等影像記録(6条)

都道府県の条例で定める罪であって、次に掲げる行為のいずれかを罰するものとして政令で定めるもの


・みだりに人の身体の一部に接触する行為
・正当な理由がなく、人の通常衣服で隠されている 下着若しくは身体をのぞき見し、写真機等を用いて撮影し、又は当該下着若しくは身体を撮影する目的で写真機等を差し向け、若しくは設置する行為
・みだりに卑わいな言動をする行為
・児童と性交し、又は児童に対しわいせつな行為をする行為

 ※一部これらの未遂罪を含む。

7. 性犯罪歴の確認事務フロー(2024/12時点)


■犯罪事実確認書交付フロー1(犯歴なしの場合)

性犯罪歴確認の申請は対象事業者が行うこととするが、申請には本人(従事予定者)が関与することとする。
その上で、対象事業者に対して、情報の適正管理義務や、一定期間経過後の情報消去義務を課す(情報の不正目的提供等について、罰
則を設ける)。

① 対象事業者がこども家庭庁に申請
② 必要書類のうち戸籍情報については、本人から直接こども家庭庁に提出
③ こども家庭庁が法務大臣に対し、性犯罪歴照会
④ 回答
⑤ こども家庭庁が犯罪事実確認書を作成・申請事業者に交付

■犯罪事実確認書交付フロー2(犯歴ありの場合)

本人(従事予定者)に回答内容を事前に通知し、本人は訂正請求可能とする。
訂正請求期間中に本人が内定等辞退すれば、申請が却下され、手続終了(犯罪事実確認書不交付)。

① 対象事業者がこども家庭庁に申請
② 必要書類のうち戸籍情報については、本人から直接こども家庭庁に提出
③ こども家庭庁が法務大臣に対し、性犯罪歴照会
④ 法務大臣はこども家庭庁にシステム外で回答
⑤ こども家庭庁は、まず本人に対し、回答内容を事前に通知。本人は通知内容の訂正を請求可能。訂正請求期間(2週間)は犯罪事実確認書は交付されない。
⑥-1 訂正請求期間中に本人が内定辞退等すれば、申請却下(犯罪事実確認書の交付なし)
 -2 訂正請求せず2週間が経過すれば、対象の性犯罪歴がある旨の犯罪事実確認書を交付

※参考 こども家庭庁資料 *2024/12時点

事務所ロゴ

8. 行政書士としての支援可能性

あくまでの現時点での可能性のお話にはなりますが、下記の様にご支援できるかもしれません。

(1) 事業者向け支援

  • 法令遵守のためのアドバイス
    子どもに関わる事業者(保育施設、教育機関、スポーツクラブ、福祉施設など)に対し、法律の内容を分かりやすく説明し、必要な体制整備をサポートします。
    • 内部規程等の見直し
    • 従業員向けの研修プログラム導入支援
  • 性犯罪歴確認の代行・手続支援
    性犯罪歴の確認が義務付けられる場合、申請書類作成や必要な手続きの代行を行います。
  • 保護者・利用者向け説明文書の作成
    施設利用者(保護者)に向けた安全対策の説明文書や契約書類の作成支援を提供します。

(2) 被害者・家族への支援

  • 相談窓口の案内と手続支援
    被害者やその家族に対し、法的手続きや行政機関への相談の手順を案内。必要な書類作成をサポートします。
  • 被害者救済手続の支援
    被害者救済や補償に関する手続(損害賠償請求、被害者支援制度の利用など)を他士業と共にサポートします。
  • プライバシー保護に配慮した手続支援
    被害者の情報を適切に管理し、プライバシーを守りながら行政手続きのご支援を行います。

(3) 自治体や教育機関との連携

  • 自治体のガイドライン作成支援
    自治体が法に基づいて策定するガイドラインやマニュアルの作成をサポートします。
  • 子どもを対象とする事業者登録制度の構築支援
    子どもに関わる事業者の登録や監督が求められる場合、その制度構築や申請手続のサポートを行います。

(4) 広報・啓発活動

  • 法施行に関する情報提供
    地域住民や事業者に向けたセミナーや説明会の開催サポート。
  • 啓発資料の作成
    子ども性暴力防止に関する広報資料の作成。

(5) その他の可能性

  • 関連団体との協働
    NPOや弁護士、社会保険労務士、社会福祉士などの専門家と連携し、包括的な支援体制を提供します。
  • 政策提言活動のサポート
    地域の実情に応じた意見書や提案書の作成支援。

事務所ロゴ

9. まとめ

令和5年4月にこども家庭庁が発足、令和6年6月26日にこども性暴力防止法が成立となりました。
公布日から起算して2年6月を超えない範囲において政令で定める日が施行日となりますので、施工はまだ1年~2年先です。

行政書士としてご支援できる可能性を信じ、弊所では随時情報を得て施行前後ですぐに士業連携できるよう準備を進めております。

また新しい情報が入りましたら、随時公開して参りたい所存です。